『ビッグイシュー』は、川崎駅前などで、おじさんが立ち売りしている雑誌です。350円で、このうち半分の180円が販売者の収入になります。
実は、この販売者のおじさんはホームレスなのです。『ビッグイシュー』は、ホームレスの人たちの自立を支援する社会的企業です。その発祥はイギリスで、10年ほど前に日本でも佐野章二さんと水越洋子さんが、スタートさせました。
『ビッグイシュー』は、この10年間で10億円近い売り上げを、自立支援として販売者のホームレスの直接の収入として配分しています。この間で、150名を越える人たちが、ホームレスから「卒業」し、屋根のある家を持ち、一般の企業などで職を得てきています。
社会的企業というのは、ビジネスの手法を活用して、持続的に社会課題を解決しようとする事業体で、法人の形態は有限会社や株式会社を中心に事業型のNPOや社団など、さまざまなものがあります。
この『ビッグイシュー』には以前から注目していましたが、実は、川崎駅のアゼリアの入り口に立っている販売者のおじさんとは、5年ほど前から、私は懇意にしているのです。川崎駅の駅頭で演説をし、選挙運動をしてきましたが、時折、おじさんと顔を合わせ、「おじさん、がんばっていますね!」と声を掛けると、「福田さんもがんばってや!」と返ってきます。何度も会ううちに、「冷たいお水を用意しておいたよ。」と本当によくしてくれました。
本日、『ビッグイシュー』代表の佐野章二さんと意見交換をさせていただいたのですが、その販売者のおじさんからは「福田市長、応援してるよ!」との伝言をいただきました。
佐野さんのお話によれば、ホームレスの人たちも、人それぞれ個性があり、自立に向けた対応も一人ひとりオーダーメードでプログラムする必要があるとのことです。川崎駅前のおじさんのように、めちゃめちゃ「やる気」に溢れている人もいます。他方では、なかなか仕事を続けることが難しい人もいます。
最近の大きな問題は、「ホームレスの若年化」、「若者ホームレス」問題だとうかがいました。24時間のネットカフェに寝泊りしたり、コンビニにたむろしたりしていて、一見するとホームレスに見えない若者が増えているのだといいます。あるいは、親の家に住んでいるけど仕事をしておらず、親亡きあとはホームレス化するホームレス予備軍のような若者も少なくないと言われています。「若者ホームレス」問題は、「見えないホームレス」問題とも言われているのです。
家を持ち、働くというのは、社会人の基本だと思います。それが、何らかの理由で働くチャンスを得られていない、何かの事情で住まいを無くしてしまう人々が存在するのです。
この間、それまで高い給料をもらっていたサラリーマンが、企業が倒産して、いきなりホームレスに転落してしまうようなケースも多くありました。
市長の役割は、そうした今だ「目に見えてこない社会問題」にも、目を凝らし、NPOや社会企業家などのように問題の現場で取り組んでいる人たちの努力に学び、そして、きちっとした公的なセーフティネットを構築することです。同時に、NPOや企業などとも連携・協働して、社会全体として人々が安心して暮らしたり、チャレンジできる環境を用意することが大切だと思うのです。
皆さん、どうぞ川崎駅前で『ビッグイシュー』のおじさんを見つけたら、1冊350円ですから、1冊でも2冊でも買い求めてください。そして、おじさんに声を掛けてください。きっと温かい言葉が返ってくると思いますよ。