『芸術作品と芸術でない物の境目は一体どこにあるのか?』そんな、根源的な問いが投げかけられる展覧会でした。
先日、生田緑地の「川崎市岡本太郎美術館」を訪ねました。
「岡本太郎とアール・ブリュット 生の芸術の地平へ」の会場に入ると、目の前には、あのウルトラマンなどに登場するカネゴンを思わせるような(岡本太郎先生ごめんなさい!)作品『ノン』がドーンと迎えてくれます。しかしその両隣には、不思議なアフリカの彫刻(後でうかがうと「椅子」とのこと)があります。最初から、何かガツンというインパクトで向かってきます。
その左側には、巨大な赤や黄の色が「爆発」したような絵が壁面いっぱい広がっています。そして驚いたのはこの絵が93歳の現役画家、石山朔さんが描かれたということ。圧倒的なパワーがほとばしり出ています。
その先には、ちょっとカラフルな芋虫のような形や怖い顔をした人形がたくさん壁にぶら下がり、その両側には、アフリカのお面が同居しています。人形は大川誠さんの「makoot・マクート」たちでした。色とりどりのフェルトをつなぎ合わせ、一心に形を作っていく姿をビデオで拝見しました。その集中力には、鬼気迫るような迫力を感じました。このアーティスト・大川さんは、NPO法人コーナスが運営する施設「アトリエ・コーナス」にいらっしゃる障害者なのです。
さらには、滋賀のやまなみ工房の熊田史康さんの作品は、思わず笑ってしまいますが、トイレ・トイレ・トイレ、トイレのミニチュアばかりです。話によれば、熊田さんは、新しい場所に行くと、まずトイレに入り水を流すそうです。それで、ほっと落ち着くのだといいます。『そうなのか』なんとなく納得してしまいます。
会場では、さらに縄文土器が障害者のアート作品と一緒に置かれていて、それが不思議なくらいにマッチしているのです。最後には、川崎市立中央支援学校の生徒がワークショップで作った絵が、これまた「色の爆発」です。その場でも、来場者の皆さんが自由に色を付けて、思い思いのお面を作っています。(ここで使われているマーカーは、70%以上の社員が障害者である日本理化学工業の「キットパス」です。)
この企画展は、学芸員の仲野泰生さんによれば、岡本太郎の著書『アバンギャルド藝術』の一節に触発されて企画されたといわれます。この中で、岡本太郎は、児童画も未開の人々の絵も、ピカソなどと同等に価値を見出しているといいます。「アール・ブリュット」とは、美術の専門教育を受けていない人たちの芸術で「生(き)の芸術」「生(なま)の芸術」を意味しています。最近では、障害者のアーティストの作品も「アール・ブリュット」として紹介されることが多くなっています。岡本太郎の発想は、「芸術というものは、人間の根源にねざしたエネルギーが生み出すものであって、そこには定式も様式もなく、おのずから形づくられる形が生まれてくるだけ、それだけ素朴で自由なものだ。」(藝術新潮1978年7月号)がもとになっています。その発想は、「アール・ブリュット」につながり、さらには、それを越えるものなのかもしれません。
この企画展は、どうしても描かずにはいられないという「生命のほとばしり」は、時代も文明も教育も越えて共通するものなのだという芸術の本質、生命の本質を感じさせてくれるものなのだと思います。
秋の一日、生田の森にある「岡本太郎美術館」を訪ねてみませんか?
※企画展「岡本太郎とアール・ブリュット 生の芸術の地平へ」は、10月5日(日)までですから、お見逃しなく。